特集 「低用量ピル」って何?

婦人科疾患を持つ女性たちにとってのピルを考える

(以下はたんぽぽの機関誌『たんぽぽ通信』34号からの転載です。)

 この9月、いよいよ低用量ピルが発売になりました。「避妊方法の選択肢が増えることで、女性の自己決定権が拡大した」と歓迎する声がある一方で、「低用量ピルは本当に安全なのか?」と疑問視する声も聞こえます。専門家ではない私たち一般の女性にとって、一体どちらの声に耳を傾ければいいのか、困ってしまいますよね。しかも、ピルの薬の成分は合成エストロゲン(卵胞ホルモン)と合成プロゲストーゲン(黄体ホルモン)です。筋腫や内膜症というエストロゲン依存性(エストロゲンによって影響を受ける)の疾患を持つ私たちにとって、問題はますます複雑になってきます。

 そこで、低用量ピルについて少し「お勉強」してみた結果をご報告したいと思います。専門家の方からもご意見をいただいています。お読みになって、なんだか歯切れが悪いな、とお思いになるかもしれませんが、それはピルに関する情報はたくさんあるようで、実は私たちが本当に知りたいことについての信頼性の高いデータは少なくて、はっきりとした結論が出しにくいからです。

 そもそも、この特集は、「たんぽぽ」としてピルの使用をどうすべきかの結論を出すことを目的としたものではなく、1人1人の会員の方が自分で決定できるように、なるべく豊富な情報を提供しようということで企画されました。ですから多少難しい話もあるかもしれませんが、ピルを使うかどうかの判断を主治医に任せきりにするのではなく、ぜひこれらの情報に目を通して、自分で時間をかけて考えてみてください。さらに、ピルについての皆さんのご意見も伺いたいと思い、「低用量ピルについてのアンケート」も用意しました。結果は次号の「たんぽぽ通信」で公開したいと思いますので、ぜひご協力ください。よろしく!(文責:さくま)

 

●「低用量ピル承認」は筋腫や内膜症を持つ私たちにとってどんな意味があるの?

 ピルとは「エストロゲンとプロゲストーゲンの作用により、主として排卵を抑制することによって妊娠を防止する」薬です。そういう意味では、エストロゲン依存性の疾患を持つ人が避妊薬として使用する際には、注意を必要とする薬です。低用量ピルというのは、従来の中用量ピルに比べて、エストロゲンの量が少ない(定義上は1錠中0.05mg以下だが、今回日本で発売されるのは主に0.03〜0.04mg)ものですが、同じホルモン薬でも、GnRHアナログなどのように期間を限定して使用するものではなく、長期にわたって(場合によっては何十年も)使用するものですから、低用量ピルに含まれているエストロゲンが私たちの疾患にどう作用するか、そのあたりのことをよくわかっておかねばなりません。

 「でも、今の私には避妊の必要がないから、ピルなんて関係ないわ」と思われる方もおられるかもしれませんね。確かに、低用量ピルが承認されたのはあくまでも避妊薬としてです。けれども欧米では、ピルは月経困難症や内膜症の対症療法の一つとして、広く用いられています。日本でも中用量ピルは内膜症や月経困難症の治療薬として保険適応が受けられますので、たんぽぽの会員の中にも使用された方がおられると思います。低用量ピルも中用量ピルと基本的には同じ仕組みでからだに作用しますから、過多月経の改善や月経痛の緩和に役立つはずです。そういう意味では、低用量ピルの解禁は、避妊の必要がない場合でも、月経関連のトラブルに悩まされることの多い私たちには、実は関係の深い出来事なのです。

 

●「避妊薬」としての低用量ピルと「治療薬」としての低用量ピル

 今回低用量ピルが承認されたのはあくまでも「避妊薬」として、です。つまり、日本政府は低用量ピルの避妊の効果と避妊目的で使用した際の安全性についてのお墨付きを出した、ということです。言いかえれば「治療薬」としての効果や安全性については、何も言っていないわけです。一方、以前からあった中用量ピルはあくまでも「治療薬」として承認されているもので、「避妊薬」としては認められていません。でも、「治療薬」なので月経困難症や子宮内膜症の保険適応になっています(種類によって適応は違いますが)。「避妊薬」として承認された低用量ピルには保険の適応はありません。

 先ほども述べたように、欧米では低用量ピルが内膜症や月経困難症の「治療薬」として広く使われています。日本でも「治療薬」として使うことはできるのでしょうか? それはできます。政府のお墨付きはありませんが、医師が治療効果があると信じていれば処方することは可能です。これまで「治療薬」のはずの中用量ピルを「避妊薬」として使っていた人が20万人以上いるとみられていますが、これと同様、「避妊薬」として承認された低用量ピルを「治療薬」に流用することはできるはずです。ただし、この場合はいくら治療が目的だといってもやっぱり保険は効きません。

 「避妊薬」と「治療薬」という区別は、私たちがピルの使用を選択する際にも重要なことです。治療薬として使うか避妊薬として使うかで、その安全性を考える際の基準も大きく違ってくるからです。治療薬として使うのなら、ピル使用によって辛い症状が取り除かれることによる生活の質の向上(つまりベネフィット)を、副作用などのピル使用のマイナス面(つまりリスク)と比較して選択することになりますが、「避妊薬」として使う場合のベネフィットは主に避妊の確実性の向上ですから、それとピル使用のリスクを天秤にかけて選択することになります。たとえばピルを服用することで、血栓症(血液の小さな塊が出来て脳や足などの細い血管が詰まってしまう状態)になるリスクが飲まない場合の3〜4倍になると言われています(とは言っても、10万人あたり11人くらいの発現率が、30人強に増える、ということですが)。ひどい貧血で日常生活が送れない状態の人は、ピルによって過多月経をコントロールできるなら、その程度のリスクは構わないと思うかもしれませんが、避妊だけを目的にピルを飲もうかと思っている人だったら、「3〜4倍」というのはかなり高いリスクだと感じられるかもしれませんよね。そういう意味では、ピルを使おうという人は、自分が「避妊薬」として使いたいのか、「治療薬」として使いたいのか、はっきりさせておくことが必要ではないでしょうか。いずれの場合でも、長期にわたって飲みつづけることになるホルモン薬ですから、安易に「治療と避妊が一石二鳥で出来る便利な薬」と考えるべきではないだろうと思います。

 

●筋腫や内膜症を持つ私たちはピルを使えるの?

 筋腫を併発していない内膜症(腺筋症、チョコレート嚢腫を含む)の人は使えますが、筋腫がある(あるいはその疑いがある)人は「避妊薬」としては低用量ピルが使えないことになっています。筋腫を持っている人は成人女性の2割とも3割とも言われていますから、実際問題、かなりの人がピルを使用できないことになります。ではなぜ筋腫を持っている人は低用量ピルを使ってはいけないのか、ということになりますが、その理由についていろいろ調べて見ても満足な情報は見つかりませんでした。

 厚生省は6月に低用量ピル承認を発表すると同時に、医師向けならびに服用者向け情報提供資料を発表し、この中で「エストロゲン依存性腫瘍(乳癌、子宮体癌、子宮筋腫)、子宮頚癌、性器癌およびその疑いのある人」を「禁忌」(服用してはいけない)の対象としました。エストロゲンで育つと言われる筋腫ですから、確かに量は少ないとはいえ、わざわざエストロゲンの入ったピルを長期にわたって飲むのはよくないのかな、という気もします。

 しかし、子宮内膜症も腫瘍ではないものの「乳癌、子宮体癌、子宮筋腫」と同じく「エストロゲン依存性」の疾患です。医薬品の使用上の注意では、「禁忌」の次に「慎重投与」(つまり服用してもいいが、十分な注意が必要)というのがあるのですが、内膜症は「禁忌」にも「慎重投与」にもなっていません。これはどうしてかと思って厚生省の資料をひっくり返して見ましたが、理由はどこにも書いてありません。そのくせ医師向けの資料には、ピル処方に際して事前の婦人科検査は「妊娠、女性ホルモン依存性疾患である子宮筋腫や子宮内膜症等の有無をチェックする上で重要である」と書いてあるのです。

 確かに子宮筋腫と内膜症ではエストロゲンの作用の仕方にも違いがあるのかもしれません。しかし、1996年にWHO(世界保健機構)が出した『避妊法使用医学適応基準』では、筋腫も内膜症も低用量ピルの適応分類の1、つまり「使用に何の制限もつけなくてもよいもの」に分類されています。低用量ピルが盛んに使われているアメリカでも、「エストロゲン依存性のがん」は禁忌になっていますが、筋腫は禁忌にはなっていません。かつての高用量のピルでは含まれるエストロゲンの量がかなり多かったので、筋腫の急速な増大が認められたこともあったようですが、低用量ピルに関してはそうしたデータは出ていません。信州大学の土岐利彦ドクターからの投稿(コラム参照)でも、低用量ピルで子宮筋腫が増大するというデータはみつからないということですし、たんぽぽで収集した医療文献のNo.107「子宮内膜症と子宮筋腫の疫学」(高橋英孝・吉田勝美著、『産科と婦人科』98年10号)は、筋腫や内膜症の危険因子に関する海外の研究(主に1990年代のもの)を集めて検討していますが、こちらも経口避妊薬の使用と筋腫の間には統計的な関連が認められなかったとしています。

 そう考えると、どうして日本では筋腫を適応から除外したのか不思議です。しかも、現在治療薬として用いられている中用量ピルでは、筋腫は「禁忌」ではなく「慎重投与」の対象になっています。もちろん「避妊薬」として使うのと違って、使用期間がさほど長くないということを前提にしているのかもしれませんが、実際には筋腫を持っている人で中用量ピルを避妊目的に使っている人もいるはずで、どうも矛盾している気がします。避妊を必要とする年齢の女性の約3割に相当する、筋腫を持つ人たちに低用量ピルを使わせない、というからには、厚生省に「なぜ筋腫に低用量ピルはよくないのか」ということの、はっきりした根拠を提示してもらいたい、と思って、担当部署である医薬安全局審査管理課に問い合わせてみました。

 しかし、結果は「筋腫にはエストロゲンが関与しているという報告があるので慎重論をとったということです」というお返事。厚生省でも「低用量ピルによって筋腫に悪影響がある」という科学的なデータは持っていないのです。「中用量ピルで治療薬として筋腫は『慎重投与』の対象になっているのだから、よりエストロゲンの量が少ない低用量ピルが『禁忌』というのはヘンですよね? それに単にエストロゲンが関与しているというだけでは、同じエストロゲン依存性の内膜症がまったく問題にされていないのもおかしいのでは?」と食い下がったところ、あちらもこの矛盾にはやや面食らった感じで、いろいろ資料をひっくり返している気配でしたが、結局は「特にそういうデータがあるわけではないんですが、慎重に使って欲しいということなんですよ。今後筋腫には悪影響がない、という疫学的データがある程度集まれば、『慎重投与』とすることを検討する可能性がないわけではないでしょうが…」とどうも煮え切えらない説明です。

 さらに、「『禁忌』というのは、行政側としては安全性の点からなるべく使って欲しくない、ということであって、本人や医師が使う必要があると認める限りは、自己責任において使うことが可能で、行政には(使えないようにする)強制力はないんですよ」とのこと。つまり、使ったからといって医師が罰せられるわけではなく、治療のために必要という医師の判断があれば使える。但し、それで筋腫が増大しても厚生省は責任を取りません、ということなのです。でも、これではどうも納得がいきませんよね。たとえば「35歳以上で1日15本以上タバコを吸う人」も「禁忌」とされていますが、これはそういう人がピルを使用した場合は「心筋梗塞等の障害が発生しやすくなる」というデータがあるからで、ちゃんとその情報は開示されています。なぜ筋腫の場合だけ、きちんとした理由が示されないのでしょうか?

 たとえ筋腫が増大する可能性があるとしても、心筋梗塞や血栓症のようにすぐに命に関わるような病気ではありません。「慎重投与」でもいいはずです。97年あたりに国内で発表された論文などを見ても、エストロゲンがらみの禁忌は「エストロゲン依存性の癌腫、たとえば乳癌や子宮内膜癌」や「エストロゲン依存性潰瘍(例えば乳癌、性器癌)」とされていたのです。それが、いざ「承認」となった時点で、突然そこに良性疾患である子宮筋腫が加わった、というのはいかにも不可解ではありませんか。いくら自己責任で使うことは出来る、と言っても、マスコミは政府発表のガイドラインをそのまま鵜呑みにして、「筋腫の人は使えない」と報道しています。政府が「禁忌」のリストに「子宮筋腫」の4文字を加えただけで、低用量ピルを使える女性が3割くらい減ってしまいかねないのですから、そこに明白な理由がないというのはおかしいですよね。

 ただ、筋腫が低用量ピルの適応外になっていることは実は「けがの功名」で、ひょっとしたら良いことなのかもしれない、と思えるような材料もあります。厚生省の資料ではこのことについて全く触れられていませんが、実は筋腫の成長にはエストロゲンだけでなく、プロゲステロンも関与しているのです。筋腫に対するエストロゲンの影響については古くから研究されてきましたが、近年になってプロゲステロンや合成プロゲストーゲンが筋腫の増大にどのように影響するかという研究が相次いで出されています。たとえば高プロゲステロン状態である妊娠中に筋腫が増大することはよく知られていますし、プロゲステロンの作用を抑えるような抗プロゲステロン剤の投与で筋腫が縮小するというデータも出てきています。低用量ピルではエストロゲンの量は少なくなっていますが、合成プロゲストーゲンは依然としてかなりの量が含まれており、中には中用量ピルに比べてはるかに強力な新しいプロゲストーゲンを用いているものもあります。現時点では、疫学的に見て低用量ピルの使用と筋腫の間に関連が見られないとしても、筋腫の発生や増大の原因はまだはっきりつかめていないわけで、低用量ピルが筋腫に何の影響も与えないと言いきることはできないのです。ですから、筋腫を持つ人が敢えて避妊の選択肢として低用量ピルを使う場合は、筋腫の大きさや内部の状態について定期的に検査を受けるなど、十分な注意が必要です(詳しくは土岐ドクターのコメントを参照)。ピルの種類もできるだけエストロゲン作用が少なく、アンドロゲン作用が比較的強く出るものを選ぶように勧める医師もいます(倉智 1999参照)。

 

●どうしてピルには治療薬としての効果があると考えられるのか

 「治療薬としてのピル」と言っても、ピルによって内膜症が完治したり、筋腫が無くなったりすることはありません。私たちの疾患に特効薬がないことは、これまでも「たんぽぽ通信」で繰り返してきた通りです。でも、とりあえず貧血を引き起こす過多月経や、何日間も寝込んでしまうような生理痛などの症状を少しでも軽減できたらいいですよね。ピルにはそういう「対症療法」的な使い方が考えられるのです。

 これはピルの避妊の仕組みと関係しています。女性の排卵は、視床下部−下垂体−卵巣から出されるホルモンのバランスにつかさどられています。詳しいことは、ピルに関する本がたくさん出ていますからそちらを参照していただきたいのですが、ピルを飲むとそれに含まれる合成エストロゲンの作用で、卵の生育と排卵を促すためのホルモンが分泌されなくなり、排卵が起こらなくなります。この排卵抑制が主たる避妊の効果をもたらすわけです。さらに、本来の月経周期ではエストロゲンの分泌により子宮内膜が増殖し、排卵後はプロゲステロン(体内で作られる黄体ホルモン)の作用で分厚くなった内膜が柔らかくなって、受精卵が着床しやすいように変化するのですが、ピルの場合は外からエストロゲンが入ってくるため、からだのほうがエストロゲンを作るのをやめてしまって、エストロゲンの総量は低く抑えられます。しかも月経周期の初めから合成プロゲストーゲンがあるので、子宮内膜自体が厚くならず、万が一排卵があって受精してしまっても、着床しにくくなるのです。

 ピルが対症療法として有効なのは、主にこの子宮内膜が厚くならない、という点です。ピルというのは、最初の21日間1錠ずつ飲みつづけて、そのあとの7日間は何も飲まないか、あるいは薬の成分の入っていない偽薬を飲むという方法で、28日周期で服用します。この最後の7日間の間に「消退出血」と呼ばれる仮の月経のようなものが起こります。しかし、薬の作用で子宮内膜があまり厚くなっていないため、「消退出血」では本物の月経より出血量が少なく、子宮の筋肉を収縮させるプロスタグランジンの発生も抑えられるので月経痛も楽になる、ということで、過多月経や月経困難症の対症療法と成りうると考えられているのです。また、排卵が抑制されるわけですから、内膜症の人たちにしばしば見られるような排卵痛も回避できると思われます。さらに、理論的には合成プロゲストーゲンが子宮の内側にある内膜組織だけでなく、子宮の外に散らばっている内膜症病巣にも作用して、病巣の拡大を抑えることも考えられます。

 ただ、実際に臨床試験などで確認されているのは、あくまでも一般的な過多月経や月経不順、月経困難症の改善であって、内膜症や筋腫の診断を受けた人が、実際に低用量ピルでこれらの諸症状の改善を得られたかどうかを調べたデータはあまりないみたいです。たとえばアメリカでは、内膜症の治療においてもっとも多く使用される薬は低用量ピルなのですが、あくまで月経困難症の治療薬として承認されたものを流用しているのであって、決して内膜症の治療薬として承認されている訳ではありません。ですから、過多月経や月経痛の症状を訴える患者に効果があることは臨床試験で確認されていても、必ずしも内膜症の患者のみを対象にして臨床試験が行なわれているわけではないのです。

 とはいえ、対象を内膜症患者に限った小規模の研究はたくさんなされていて、80年代末にまとめられた報告では、ピルの使用によって75%から89%の内膜症由来の痛みが緩和されることが確認されているそうです。低用量ピルの効果をGnRHアナログと比較対照した1993年の研究では、月経困難症の改善についてはGnRHアナログの方が効果がある、という結果が出ています(Olive 1995参照)。しかし、ご存知のように骨量低下などの副作用のためにGnRHアナログは長期間の使用はできません。通常は6ヵ月以内、アドバック療法を使ってもせいぜい2年くらいしか使えませんから、そういう意味ではGnRHアナログほど強い副作用がない低用量ピルは、この先閉経まで20年近くあり、すぐに妊娠する予定がないという若い内膜症の方には、漢方のほかに考えられる一つの選択肢かもしれません。

 ピル使用による消退出血でも通常の月経に比べて痛みや出血量に改善が見られない場合は、7日間の休薬期間を置かずに有効な薬の成分が入っている錠剤をずっと飲みつづける、という方法も考えられます。薬をお休みすると消退出血が引き起こされる訳ですから、もしお休みしなければ、理論的にはずっと月経も消退出血も起こらないことになります(実際には副作用で不正出血が起こることはあります)。こうやって4週に1度の代りに、6週に1度とか9週に1度だけ消退出血を起こすように、時間稼ぎをする方法もあるのです。アメリカの資料では、最長1年まで継続して有効成分の入っている薬を飲みつづけることが可能だとされていますが、そこまで長期に渡る服用は慎重に考えたほうがいいでしょう。ちなみに、低用量ピルには一相性、二相性、三相性の3種類(注)がありますが、こうした連続使用の場合には、21日間に飲む錠剤に含まれるホルモンの量がずっと一定している一相性の薬を使うことになります。

 低用量ピルの使用によって、実際に内膜症病巣が小さくなるかどうかは確定的なデータがありません。ピルはあくまでも症状を抑えるための療法(対症療法)であり、そういう意味では、漢方療法と同じです(漢方による内膜症治療については、12〜13Pの武田玲子さんのお話を参照してください)。残念ながら、痛みの軽減や過多月経の緩和について、漢方薬とピルの効果を比較検討したデータは今のところ見当たりません。ですから現時点で、どちらを使ったほうがいいとは言えません。しかし、いくら出血量が抑えられても、ピルによる消退出血は本来の月経ではありませんし、自然のホルモンの状態に近づくように1錠ごとのホルモン量を調節してある三相性のピルを使っているときでも、実際のからだは本来出すべきホルモンを出すことをやめているわけです。ピルにはそういう働きがあることを十分理解したうえで、どう使うかを検討していく必要があるでしょう。

 ちなみに低用量ピルはあくまでも避妊薬として認可されたもので、保険適応がありません。治療薬ではないので、ピル自体の価格はGnRHアナログほど高い値段に設定されることはないと思いますが、自費診療ですから医療機関によってバラツキが出てくるものと思われます。また、処方の際には、重篤な副作用が出る可能性を持つ人を除外するために、一通りの検査が必要とされていますが、これらの検査もやはり保険が効かないので自己負担になります。飲み始めてからも定期的に(6ヵ月〜1年に1度)検査を受けることになっていますが、こちらも同様です。治療薬として使われてきた中用量ピルの場合は、通常こうした検査は必要とされていませんが、何らかの危険が予測されて検査をする場合は保険が効きますし、薬そのものはもちろん保険適応になっています。そういう意味では、低用量ピルは、中用量ピルよりはやや割高になると思われます。8月26日付の「日本経済新聞」によると、1周期(28日)分の薬価は、2,000〜3,000円で、初診料や任意の性感染症検査の費用などを含めて、初回は1万〜1万5,000円ほど、さらにその後2〜3ヶ月ごとの来院と半年ごとの血液検査や性感染症検査などで、年間にすると約5〜6万円の出費になるだろうと予想されています。

-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

(注)21日分の錠剤に含まれるエストロゲンとプロゲストーゲンの量が一定であるものを「一相性ピル」、21日間を前半と後半に分けて、後半の方でプロゲストーゲンの量を倍に増やすようにしているものを「二相性ピル」、21日間を3段階に分けてそれぞれの段階でエストロゲンやプロゲストーゲンの量を増やしたり減らしたりするようにしているものを「三相性ピル」と呼びます。自然状態でのホルモン分泌は、月経周期の中で変動しますから(排卵まではエストロゲンの値が高く、その後はプロゲステロンの値が高くなります)、三相性のほうが自然状態に近いことになり、不正出血などは抑えられますが、その分消退出血も普通の月経に近くなり、月経困難症を抑える効果は少なくなります。

-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

 

●筋腫による過多月経や痛みにはピルは効かないの?

 確かに消退出血時の出血や痛みが通常の月経より楽なものならば、筋腫患者でこれらの月経関連トラブルに悩む人にもある程度は効果があると考えられます。アメリカでは筋腫は低用量ピルの禁忌の対象にはなっていませんから、その程度のエストロゲンなら大丈夫だろう、という判断で、治療用にピルを薦める医師もいます。日本でも中用量ピルでは筋腫は「慎重投与」で「禁忌」ではありませんでしたから、月経困難症や過多月経の緩和のために使っていた方もおられるのではないでしょうか。そう考えると中用量ピルよりエストロゲンの量が少ない低用量ピルの方が治療薬としても、吐き気や血栓症などの副作用が出にくいという点で、メリットがあるかもしれません。

 土岐ドクターの投稿にも出てきますが、1995年にアメリカで発表された論文では、55人の筋腫の患者に低用量ピルを1年間処方し、子宮のサイズ、月経日数、血液のヘマトクリット値の使用前/使用後の変化を調べ、同時期にピルを含めて一切のホルモン療法をしなかった32人の筋腫患者のこれらの値の変化と比較しています。これによると、子宮のサイズ自体はどちらのグループも有意な変化がなかったのですが、月経日数はピルを服用したグループでは5.8日から4.4日へと減少しており、ヘマトクリット値の改善も見られました。服用しなかったグループではこれらの値に変化はありませんでした。患者数の少ないこの一本の論文だけでは結論は出せませんが、低用量ピルは筋腫患者の過多月経にも有効であることは十分に考えられるでしょう。

 でも、先にも述べたように厚生省が出している処方ガイドラインで、子宮筋腫が低用量ピルの適応から除外されているからには、医師が筋腫患者に低用量ピルを処方するのにかなりの勇気と信念が必要になります。そういう意味では、筋腫患者、さらには筋腫を持つ内膜症患者にとっては治療薬の選択肢は広がっていないことになります。もちろん、先に述べたプロゲストーゲンの問題もありますから、外国で筋腫患者にも使われているというだけで「安全な薬」と決め付けることはできませんが、本当に使ってはいけない薬なのか、信頼に足る研究によってはっきりさせてほしいものです。

 

●ピルは避妊薬として本当に安全なの?

 もちろんピルがエストロゲン依存性疾患を持つ女性にとって安全かという問題以前に、ピル自体が薬として本当に安全なのか、という問題があります。今回承認されたのは9社16品目と、成分的にも多種多様なピルがあるのですが、マスコミなどではすべて「低用量ピル」と十把一からげにしていて、個々のピルの特徴やリスクについては十分な情報が出されていません。また、最近ではピルを環境ホルモンとして危険視する声もあり、たんぽぽとも交流のある武田玲子ドクターは、「内分泌かく乱物質」としてのピルの作用について論文も発表しておられます。こうした問題については、今回の特集では紙面が足りなくて、とてもカバーしきれません。ですから、発売後の動向やピルの種類別の違い、使用上の注意、そして安全性に関する議論については、次号でもう少し丁寧にフォローしたいと思っています。そこで皆さんのご質問にもお答えし、ご意見も紹介したいと思っておりますので、ぜひ添付したアンケートにご協力ください。その間にももっとピルについて知りたい、という方は以下の情報源をご参照ください。 (続きは35号へ

 

 

<本稿を書く上で参照した文献>

http://www.jaog.or.jp/JAPANESE/jigyo/JYOSEI/PILL/doctor/index.htm

http://www.mhw.go.jp/search/docj/houdou/1106/h0602-3_15.html

・広井正彦・斎藤英和ほか「特集:低用量ピル」『思春期学』Vol.15 No.3 1997(たんぽぽ医学文献リストNo.119)

・玉舎輝彦「低用量ピル〜新しい避妊法を考える(1)(2)」『産婦人科治療』Vol.78 No.2〜3、Vol.79 No.1〜2、1999(たんぽぽ医療文献リストNo.120)

・性と健康を考える女性専門家の会編「ピルと女性の健康」検討資料、1998

・世界保健機構「WHO避妊法使用医学適応基準」(翻訳・性と健康を考える女性専門家の会)、1996

・高橋英孝・吉田勝美「子宮内膜症と子宮筋腫の疫学」『産科と婦人科』1998、10号(たんぽぽ医療文献リストNo.107)

・塩沢丹里・藤井信吾「子宮筋腫とステロイドホルモン」『Hormone Frontier in Gynecology』Vol.3 No.1(たんぽぽ医療文献リストNo.56)

・大野原良昌ほか「子宮内膜症とステロイドホルモン」『Hormone Frontier in Gynecology』Vol.3 No.1(たんぽぽ医療文献リストNo.55)

・武田玲子「ピルは安全か〜内分泌撹乱物質の視点から」『セミナー医療と社会』第15号、1999

・「特集:ピルから見える世界」『インパクション』105、1997

・Friedman, AJ & Phaedra, PT, "Does Low-Dose Combination Oral Contraceptive Use Affect Uterine Size or Menstrual Flow in Premenopausal Women With Leiomyomas?" Obstetrics & Gynecology Vol.85 No.4, 1995

・Rein, MS, Barbieri, RL, & Friedman, AJ, "Progesterone: A critical role in the pathogenesis of uterine myomas," American Journal of Obstetrics and Gynecology, Vol. 172, No.1, 1995

・Olive, DL, "Medical Treatment for Endometriosis: Overview and Alternative Options," in Ballweg, ML & the Endometriosis Association, The Endometriosis Sourcebook, 1995

*アメリカの薬の情報についてはhttp://www.planetrx.com/を参照

 

<そのほかピルに関する参考図書>

・倉智敬一『くわしくわかるピルの本』中央公論新社、1999

・芦野由利子『ピルのことを知りたい−−性と避妊を考える』岩波ブックレットNO.484、1999

・綿貫礼子、武田玲子ほか『環境ホルモンとは何かI・II』藤原書店、1998

・エレン・グラント『ビターピル:経口避妊薬の落とし穴』メディカ出版、1992

・女のためのクリニック準備会編『ピル〜私たちは選ばない』1987

 

<その他の情報源>

ピルの発売元や輸入業者などが、発売開始に合わせて低用量ピルについての電話情報センターを開設しています。この「OC情報センター」(OCとは、oral contraceptiveの略で経口避妊薬のこと)は24時間受付の自動応答システムで、ピルの副作用、入手方法等の情報をテープ録音かファクスによって手に入れることができます。通話料以外は課金されないそうです。電話番号は03-3814-1809と06-6266-2488です。

 

 

====<コラム>=====================================

土岐利彦ドクター(信州大学)からピルと筋腫の関係についてのコメントをいただきました

たんぽぽの皆さん、こんにちは。

ピルと筋腫に関することですが、まず、思ったよりも文献が少ないのに驚きました。医学文献のデータベースMedlineには、1976年から最近までの20年以上で、両者に直接触れている文献は10数件しか出ませんでした。そこで、問題として取り上げられているのは、

  1)ピルを服用することで、子宮筋腫の発生が増えるか

  2)子宮筋腫の患者さんがピルを服用すると筋腫がどうなるか

  3)特殊な副作用のようなものがないか

というような点です。

 まず、ピルの服用と筋腫の発生に関しては、関係は証明されないという論文と、長期(10年以上)のピル服用で筋腫の発生は「減少する」という報告がありました。とりあえずは、筋腫のない女性が長期間ピルを服用することで、子宮筋腫の発生が増加することはないといっていいようです。

 次に、子宮筋腫の患者さんがピルをある程度の期間服用するとどうなるかという論文は1件しか出ませんでした。それによると、1年の低用量ピルの服用では、筋腫の大きさは不変で、月経時の出血量は減少するという結果でした。

 筋腫の患者さんがピルを服用して問題が起こった、という事例報告では、筋腫に出血をおこして疼痛が起こったというケースが少なからず報告されていました。こういう報告は、母数がわからない訳ですが、おそらく実際の発生頻度としては、それほど多いものではないと思われます。

 また、粘膜下筋腫の治療として、GnRHアナログを使用して大出血を来した場合に、GnRHアナログを中止してピルを使用すると出血をコントロールできるという報告もありました。

 文献的にはだいたいこのくらいしかありませんでした。以下、私個人の考えですが、低用量ピルに含まれている程度のエストロゲンの量で、すぐに筋腫が大きくなるとは考えにくいと思います。筋腫をもつ患者さんで、近々手術を必要とするような状況ではない場合で、

  1)確実な避妊を希望する

  2)GnRHアナログを使いにくい(副作用とか何度も使っているなど)

という時には、ピルの使用を考えてもいいと思います。

 ただその時には、定期的に筋腫の大きさを確認することや、超音波で筋腫の内部の状態に注意する必要は出てくるでしょう。また、頻度はそれほど多いとは思いませんが、筋腫の中に出血して痛みが起こり、手術が必要になることがあることも理解する必要があるでしょう。

 なお、筋腫の内部に出血をおこすと、症状以外でも、MRIで肉腫との鑑別が難しくなることがあり、婦人科医としては手術をすすめることが多くなることが予測されます。

実際に低用量ピルが発売になり(9月2日)、薬の要注意の欄に子宮筋腫が出てしまうと、責任問題もありますので、産婦人科医のほうでは筋腫をもつ患者さんには処方しにくいという事態になるでしょうね。最終的には、使用者の個人責任を踏まえたピルの完全自由化でないと、この問題は解決できないと思いますが、日本では当分先のことでしょう。

=============================================

 

低用量ピルと内膜症・筋腫の関係

 

子宮内膜症

子宮筋腫

避妊薬としての適応

特に制限はない

禁忌

(理由は明らかでない)

治療薬としての効果

アメリカでは内膜症の治療薬として低用量ピルは広く用いられている。過多月経の抑制、月経痛の緩和に効果が確認されているが、他の治療法に比べてより効果があるかどうかの検証は十分になされていない。

内膜症の場合と同様、過多月経の抑制、月経痛の緩和に効果があると考えられ、実際に処方されているケースもあるが、科学的に検証したデータはない。

保険適応

なし

なし

エストロゲンの影響

WHOによると低用量ピルに含まれるエストロゲンの量では、内膜症病巣の拡大には影響がないとされている。

WHOによると低用量ピルに含まれるエストロゲンの量では、筋腫の発生や増大に影響しないとされている。その他の文献でも低用量ピルに関しては筋腫に悪影響を及ぼすと言うデータはない。

合成プロゲストーゲンの影響

低用量ピルに含まれるプロゲスチンは内膜症組織の萎縮に貢献するのではないかと言われているが、信頼に足る検証データは存在しない。

筋腫の増大にはエストロゲンだけでなく、プロゲステロンが関与していると言われるが、低用量ピルに含まれるプロゲストーゲンが筋腫に対して与える影響については研究がない。

 

ピル禁忌に関するアピール文に戻る

35号・ピル特集Part2へ進む